良質な木材にめぐまれている北海道。その中心にある旭川は「家具のまち」としての一面も。大小120社ほどのメーカーが家具づくりにはげんでいます。ここが育てる家具「DoooiT」のふるさと。今回は育ての親のひとり、パートナーである若狭さんにお話しを聞きました。見渡す限り田んぼが広がる工場に、腕利きの木工職人が集まる理由やいかに?
モグリなのに技術は天才的
目指していたのは
ブラックジャックのような職人
会社の設立は何年ぐらい前なのでしょう?
若狭さん
「きっかけは35年くらい前。昭和の終わりごろかな。親父が働いていた会社と喧嘩別れして(笑)木材を切り売りする商売からはじまった。そこからお客さんからのリクエストで什器(店舗やオフィスで使う木工製品)や特注家具を作るようになって。しばらくは親父とオレと、職人さん1人だけ。田んぼの真ん中に建てた小さなスーパーハウス(プレハブ)だけの小さな会社だったんだよねぇ」
いまでは若手中心に30名近くが働いていますね。
若狭さん
「来る者拒まずでいたら自然と人が増えたんだよねぇ。旭川は家具づくりの歴史が長く、基盤ができているから仕事にも困らない。横のつながりがしっかりしていて、自分の工場でまかないきれない案件は周りの会社に声を掛ける関係。だから、うちは誰もが知っているような有名ブランドの家具もつくってるんだよ」
技術が認められているからこそです。
若狭さん
「技術ねぇ。うちの親父は手塚治虫のブラックジャックが好きだから。『モグリの製作工場にする』と、気に入った依頼は採算度外視で請け負うような働き方だった。人柄が合わなかったら大金を積まれても引き受けない(笑)。なんだかんだ親父が引退してからも、信用できる人とだけ一緒に仕事をしている。ぽっと仕事を丸投げして後から文句を言うような相手は嫌だからねぇ」
転んでもただでは起きぬ
ものづくりには
不屈の精神が欠かせない
あの人気球団の監督が座る椅子をつくってニュース番組にも登場していましたよね。
若狭さん
「じつは紆余曲折あって……当初は旭川家具のつながりで仲間を募り、組織として球場建設前から関わってたんだよねぇ。みんなが驚くようなプレゼンテーションをして、見事その企画が通った。でも、制作チーム内で足並みを揃えることができず、プロジェクトは空中分解。それから1年、申し訳ない気持ちがつのり、今度は球場建設に携わる方々を招いて、旭川の家具づくりを紹介するツアーを開催したんだよ。そこで『監督の椅子をつくらないか』と依頼を受けた」
大きな失敗からの再チャレンジだったですか!?
若狭さん
「うんうん。『もちろん、なんでもやります!』とデザインを11案ほど出したよ。ユニークなアイデアが並ぶなか、監督が選んだのは最もスポーティーなタイプ。もう少し高い位置から球場全体が見渡せるようにしてほしいとアドバイスをいただいて、現在のかたちになったんだよねぇ」
手掛けた椅子が全国中継で映るってすごいです。
若狭さん
「球団を応援しながら、いつも椅子を見守っているよ。もしかするとバットが飛んでくるかもしれない、それでも耐えろ、とか。どんな想定外のことが起きても絶対に負けるな、かんばれ、なんて風に(笑)」
家具が子どものような存在でもあるんですね。
世界に挑戦する人もいれば
海外から学びに来る人もいる
ワカサの宝はスタッフたち
大切な存在と言えばスタッフの皆さん。国内だけでなくアメリカからも優秀な若手が来たそうですね。
若狭さん
「Facebook経由でアメリカから『木工の勉強をしたい』とメッセージが届いたときには(これは詐欺だぞ)と思ってた(笑)。『旭川に行くから会ってくれないか』って言うから(詐欺だとしても面白そうだな)と実際に会ってみたら、詐欺じゃなかった。熱意のある若者が来たよ」
それでなんと伝えたのでしょう?
若狭さん
「すぐに来いって言ったよ。なんか面白そうだったし。一緒に働いてからも、発想が面白い。『これはやってはいけない』なんて既成概念がなく、いつも建設的なアイデアが飛び出す。29年間アメリカにいたとは思えないほど日本語も上手い。向こうでは大学でデザインを学び、鉄を扱う家具メーカーでも働いていたから知識も豊富。クライアントからの信頼も厚いんだよねぇ」
そんな世界レベルの人材がいるとは。
若狭さん
「世界レベルと言えば、世界各国の職人が技を競う大会に日本代表として出場したスタッフもいるよ。技能五輪といって2年1度くらい、自動車板金や電子機器組立て、西洋料理、ホテルレセプションまで50種目以上で技能を競う国際大会があって。それのキャビネットメイキングっていう家具製作の種目。そもそも旭川自体の技能レベルが高くて。2007年から2022年まで8大会連続で日本代表を輩出してるんだよぉ」
田んぼが広がる
風通しのよい環境が
新しいものを生み出す
さまざまな人が集まる会社ですね。
若狭さん
「うちの会社は、いわば傭兵部隊だと思ってる。世界一の傭兵部隊。来る者拒まず、みんな好きに働いている。なかなかまとめ切るのが難しいんだよねぇ」
仕事に打ち込めるノビノビとした環境です。
若狭さん
「ものづくりに打ち込むのも良いけど……若手には、もっといろいろなことにチャレンジしてほしいとも望んでる。技術が高いのは分かっているから、能ある鷹のように爪を隠して。つくるってことも大事だけど、オレは経営者を育てたいんだよねぇ。ものづくりを通じてたくさんの人とつながる、関係性を築ける、そんな器の大きな人が育っていったらいいな。それが今の有限会社ワカサにとって1番大事なことなんだと思ってるよ」